変化の激しい、予測が困難な時代。データから得られる新たな知見や洞察は、将来を予測して合理的な意思決定をするための重要なツールとなっている。青山学院大学は、データの収集?分析を行い、データの背後に隠された「有用な法則や関連性」を見つけ出し、課題を解決する科学、データサイエンスの学びを軸にした「统计データサイエンス学环」を2027年4月に設置構想中だ。既存5学部※1と連係する学環は、複数の学問領域を横断的に学ぶことができる新たな教育プログラムを構築している。社会が求める専門性と実践知を培うデータサイエンス教育について、同大理工学部卒業生で気象情報会社の株式会社ウェザーニューズ代表取締役会長の草開千仁氏と、青山学院大学学長補佐でデータサイエンス教育の責任者であり、统计データサイエンス学环の開設準備室室長である同大経営学部教授の荒木万寿夫氏が語り合った。
PROFILE

青山学院大学 学長補佐
経営学部 経営学科 教授
新学环开设準备室室长
荒木 万寿夫
ARAKI Masuo
统计学を轴にしたデータサイエンス教育を展开していきたい
1966年生まれ。青山学院大学大学院 経済学研究科経済学専攻 博士後期課程標準年限満了退学。修士(経済学)(青山学院大学)。99年青山学院大学 経営学部経営学科 専任講師に着任し、2010年同教授。20年経営学部教務主任を経て、21年青山学院大学学長補佐(データサイエンス担当)に就任し、現在に至る

株式会社ウェザーニューズ
代表取締役 会長
草開 千仁
KUSABIRAKI Chito
データ活用は、当社の中核そのものです
1965年生まれ。大学では量子物理学の研究を进める。87年青山学院大学理工学部物理学科を卒业后、创业间もない株式会社ウェザーニューズに入社。営业本部颁厂厂(カスタマー?サービス?サポート)事业部长、防灾?航空事业本部长、常务取缔役、代表取缔役副社长を経て、2006年に代表取缔役社长、24年代表取缔役会长に就任
1.必要なのは
「生成础滨活用の一歩先」の力
草开千仁氏(以下、草开):ウェザーニューズにとって、データ活用は中核そのものです。私たちの强みは「世界最大规模の気象データベース※2」と「日本における予报精度ナンバーワンの気象予测※3」、そして「各マーケットとのコミュニティー」の3つです。気象予测においては観测データが最も重要です。日本のアメダスのように各国の気象庁から受信できるものに加え、レーダーや卫星などの気象センサー、観测情报が少ない场所では自ら観测机を整备し、気象データを収集します。
そのうえで、大量のデータをリアルタイムで分析し気象予测をするわけですが、现在は复数の予测モデルの中から、天候パターンに合わせどれをメインモデルとするかを决める、アンサンブル予报というやり方で、长年蓄积されたデータから分析したうえで决定しています。すなわち気象予测はデータ活用がベースとなっているのです。また、気象予测の歴史は统计モデルから始まり、现在の主流は物理モデルです。そのため気象予测における础滨の活用はある意味古くて新しいアプローチといえます。
昨シーズンでは、 AIを活用した台風の進路予測に関して従来の気象予測モデルと比較し、精度の高い結果が出始めており、今後も気象予測においてはますますAIを通じてデータが活用されていくことになるでしょう。
当社の3つ目の强みであるコミュニティー形成にもデータ活用は重要な意味を持ちます。私たちのサービスは単に気象予测のみを提供しているわけではなく、気象予测に各マーケットのビジネスデータを掛け合わせ、各业务への対応策に深化させたコンテンツを提供しています。そうすることで、各业务における费用対効果や安全性を担保し、各マーケットとの信頼関係を构筑し、コミュニティー形成へとつなげているのです。
现在では、コンピューターリソースの発达や、民间気象会社の台头、甚大な灾害発生等に伴うデータ解析により、気象予测の精度は大きく高まっています。しかし一方で、「データ活用ができる人材」はまだまだ不足している状况にあります。データ解析能力や础滨活用能力、ビジュアライゼーション能力を备えた人材が求められており、当社の新卒採用も、现在では気象予测専门の人材に加えて、データを活用できる滨罢人材が中心となっています。大量のデータを见て、面白そうだと感じられる感覚は重要ですね。
荒木万寿夫氏(以下、荒木):従来もデータを活用できる滨罢人材は社会で求められていましたが、2022年の生成础滨の登场で、础滨活用が一部の専门领域から社会全体へと拡张したことは転换点だったと感じます。生成础滨は闻けば何でもわかる、まるで人间がかなわない无敌の存在かのように思われていますが、学生には生成础滨に頼るだけではなく、その先へと歩みを进めてほしいのです。
大学としても、时代の要请にどうコミットし、教育していくべきなのかを考える必要があります。
あくまで生成础滨は过去に蓄积されたデータを学习したシステムであり、主としてその学习内容に基づいて答えを生成するものです。确かに生成础滨でも将来の予测らしいものはできますが、将来の意思决定をするには、そこから一歩踏み込んで、现在を捉えた质のよい数量的なデータを集め、そのデータに基づいて分析し正しい解釈をして、次の打ち手を见つけられる能力が必要になってきます。データサイエンスの学びとしてフォーカスしたいのはこの点です。
本学が設置構想中の「统计データサイエンス学环*」に「統計」とあえて名付けたのにも理由があるのです。データに見られるような規則性に基づいた学習を行う生成AIは、厳密な意味での因果推論が苦手ですが、統計学ではそれも重要なテーマの1つであり、どのようなメカニズムで何が起こっているのか、モデル化して考えます。その意味で統計学の強みを生かし、统计学を轴にしたデータサイエンス教育を展开していきたいと考えているのです。
2.気象予测にとどまらない
あらゆる领域での
「データ活用」
草开:私たちのデータ活用に基づくサービスジャンルは多岐にわたっています。例えば船会社に対しては、彼らの船舶のパフォーマンスデータと海象予测を分析し、その船の航海に対して最も危険が少なく、积み荷に合わせた适切なルートとエンジン回転数のデータ提供を行います。航海気象サービスは现在、全世界の外航海运约3万隻のうち约1万隻に活用していただいております※2。また、天候に左右されやすい流通小売业に対しては、小売店の笔翱厂データと私たちが蓄积した気象の実况や予测データを分析することで、どの商品の仕入れを増减させるかなど、全国のコンビニやスーパーに向けた発注支援も行っています。
自动车メーカーとのコネクティッドカーのワイパーデータを活用した共同研究にも参加しており、ワイパーの动きによって雨の强さを分析したり、フォグランプやブレーキのデータから路面の状况について気象の実况値を导き出したりしています。これらのデータは、特にトラックが山间部を走行するときに役立つことが期待されています。当社の「ウェザーニュース」ユーザーによるウェザーリポートもたいへん有効なデータの1つであり、気象データと合わせて解析することで、従来では困难とされてきた降雪予测などの精度向上に大きく寄与しているのです。
荒木:データ活用がカバーできる領域は、本当に幅が広いですね。「统计データサイエンス学环」においても、データサイエンスの大きな役割の1つは「予測」だと考えています。正確な予測をすることは科学の大きな使命です。一方で、今起きている現象をビジネスに生かすことも必要ですし、因果性を探究していくことも大きな役割だといえます。自分で必要なデータを確保して分析し、エビデンスを見いだしていけるような知識とスキルを身に付けて、社会で活躍できる学生を育成したいですね。
また、本学环は青山キャンパスで初の理系学士课程となります。青山キャンパスには人文?社会科学系の7学部を设置していますが、データサイエンスの技术や知见は、どの分野においても必要なため、他学部とも知の交流を进めていきたいと考えています。1学年60名という少人数制で统计やデータサイエンスを専门に学びますが、「学部」ではなく、「生成础滨と教育?メディア」や「础滨の法と伦理」など既存5学部※1との连係?协力の下で学问领域を横断的に学べる新しい教育プログラムが特长です。さらに医学部に大学付属の病院があるように、身に付けた知识や技能を実践に移す「统计データサイエンス研究教育センター」も设置予定です。

草开:私は理工学部出身ですが、もし当時この学環があったら、こちらでも学んでみたかったと思います。私たちのようにデータ解析が重要な会社にとって、とても魅力的な学問領域に見えます。「学環」という形で、幅広い領域と連携し、データサイエンスが果たしている役割や可能性について、大学の授业でしっかりと学べるのは非常に大きい。学環で学ぶことで多様な知識や思考法を身に付けてほしいと思っています。
荒木:はい。青山キャンパスはBIT VALLEY渋谷?青山に近接する立地でもあり、ITのリーディングカンパニーも多く、地の利があります。実際にいくつかの企業からもすでに、共同研究のお声がけをいただいています。他学部の学生や教員だけではなく地域や企業とも交流を進めることで、ロールモデルを見つけ触発されたり、研究力の向上や、学びの動機づけをしやすい環境にあることは、本学環の大きな特長になると考えています。
3.「サーバント?リーダー」としての
データサイエンス人材
草开:ウェザーニューズは1970年、15名の尊い命が失われた福岛県小名浜の海难事故を受けて、创业者の石桥博良が「船乗りの命を守りたい」とつくった会社であり、今でも「いざというとき、人の役に立ちたい」という思いは全社员に受け継がれています。
青山学院大学は社会の「サーバント?リーダー」を育成することを使命としていますね。サーバント?リーダーとは、「自由で自立した存在として、他者に仕えるとともに、互いの価値を见出し、それを他の価値とつなぐことによって新しい时代を创造する者」と定义されていますが、気象の世界も同じです。気象予测は、世界各国で异なり、私たちが日本で培った技术やノウハウがそのまま生かせるわけではありませんが、互いの価値を见いだし、その他の価値とつないで、自分たちのノウハウや技术を提供することができる。気象予测をグローバルに展开することは、サーバント?リーダーに求められることそのものなのです。
荒木:まさに、情報に関してどれだけ価値を見いだし、そこから次にどう行動すべきなのか、どう考えられるかが重要になっています。そのために統計学やデータサイエンスを学ぶことは、有効な選択肢になります。「统计データサイエンス学环」では、専門性と実践力を兼ね備えた社会を開くデータサイエンス人材を育成しますので、ご期待ください。
- * 2027年4月設置構想中
- ※1 教育人间科学部、経済学部、法学部、経営学部、理工学部
- ※2 ウェザーニューズ調べ
- ※3 出所:東京商工リサーチ調べ(2025年5月時点)
- 出典:2026年3月11日公開 東洋経済オンライン